異本十三 虫の音や

昔、物思ふ男、目をさまして、外(と)の方を見出(みいだ)して臥したるに、前栽(せざい)の中に虫の声なきければ、

かしがまし草葉にかかる虫の音やわれだに物をいはでこそ思へ

現代語訳

昔、物思いに沈む男が、目をさまして、外の方を見やって横になっていた所、植え込みの中に虫の声が鳴いていたので、

かしがまし草葉にかかる虫の音やわれだに物をいはでこそ思へ

(やかましいなあ。草葉に留まって、こんなにも虫の声が鳴いている。私でも物を言わないで思いに沈んでいるというのに)

語句

■前栽 せざい。せんざい。植え込み。 ■草葉にかかる 「草葉に留まっている」と「こんなふうに」を掛ける。

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朗読・解説:左大臣光永