異本六 今はとて
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昔ありける、色好みける女、あきがたになりつる男のもとに、
今はとてわれに時雨のふりゆけば言の葉さへぞうつろひにける
返し、
人を思ふ心のはなにあらばこそ風のまにまに散りもみだれめ
現代語訳
昔あった、恋多き女が、自分を飽きてきた男のもとに、
今はとてわれに時雨のふりゆけば言の葉さへぞうつろひにける
(今はもう秋になり時雨が降ってきました。そんなふうに私も年を取ったから、あなたは私に飽きてしまったのでしょう。だから、言葉までもつれないものに変わってしまったのですね)
返し、
人を思ふ心のはなにあらばこそ風のまにまに散りもみだれめ
(あなたを思う私の心がもし花のような移ろいやすいものであれば、風のまにまに散り乱れるでしょう。しかし、私の心はあなたにまっすぐです。移ろうなんて、とんでもない)
語句
■今はとて 今はもう。
解説
この歌のやり取りは、『古今和歌集』には小野小町と小野貞樹の贈答歌として出ています。
今はとてわが身しぐれにふりぬれば言の葉さへに移ろひにけり
小野小町
人を思ふ心の木の葉にあらばこそ風のまにまに散りも乱れめ
おそらく『古今和歌集』の小野小町と小野貞樹の贈答歌をもとに『伊勢物語』作者がストーリーをふくらませたのでしょう。
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朗読・解説:左大臣光永