百二十 筑摩の祭
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むかし、男、女のまだ世経ずとおぼえたるが、人の御もとにしのびてもの聞えて、のち、ほど経て、
近江なる筑摩の祭とくせなむつれなき人のなべのかず見む
近江 筑摩神社
近江 筑摩神社
現代語訳
昔、男が、まだ男女の仲を経験してないと思える女がいたが、その女がさる高貴な男性とこっそり語り合って、関係を持った後、しばらくして男が女に詠んだ。
近江の筑摩神社の祭りを、すぐに、しましょう。男女関係なんて興味が無いという風だった女が、何個の鍋を頭にかぶっているか、見ようじゃないですか。
語句
■世経ず 「世」は男女の関係。それを経験していないことで、生娘。 ■人 「人の御もと」と言っているので高貴な男性。 ■もの聞こえて 愛を語り合って(男女の関係を持って) ■のち 女が「世を経て」。つまり男性と関係を持って後。 ■近江なる筑摩のまつり 滋賀県坂田郡米原町にある筑摩神社の祭。里の娘が男と契った数だけ鍋をかぶって参詣し奉納する風習があったという。現在も鍋冠祭(なべかぶりまつり)として残る。「つれなき人」は男女の関係なんて興味ないといったそぶりだった女。
解説
滋賀県米原市の筑摩(ちくま)神社では、今も「鍋冠祭(なべかむりまつり)」が毎年5月3日に行われています。
鍋かぶるんですよ。
現在はシンプルに鍋いっこかぶるだけですが、どうやらかつては、女性が、通じた男性の数だけ、鍋をかぶらされたようです。
港町で、遊女が多く、風紀が乱れるからこうした祭が始まったようです。
鍋の数をごまかすと、神の怒りにふれて鍋が落ちて割れたといいます。
それを踏まえて、
男女関係なんてとても関係なさそうな、無垢な感じの女がいた。しかしその女が、さる高貴な男と関係をもって、それが発覚した後に、
近江の筑摩神社の祭をすぐにしましょう。純真だと思っていた女の、鍋の数がみたいものです。