百十五 都島
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むかし、陸奥(みち)の国にて、男女すみけり。男、「みやこへいなむ」といふ。この女、いとかなしうて、うまのはなむけをだにせむとて、おきのゐて、みやこしまといふ所にて、酒飲ませてよめる。
おきのゐて身を焼くよりも悲しきはみやこしまべの別れなりけり
現代語訳
昔、陸奥の国で夫婦が住んでいた。男が「都へ帰ろう」と言う。この女、たいへん悲しくて、餞別をせめてしようと、おきのいて・都島という所で、男に酒を飲ませて詠んだ。
燠火(赤くおこった炭火)が体にくっついて、身を焼くよりも悲しいことは、この都島辺の別れですよ。
語句
■陸奥の国 東北。磐城・岩代・陸前・陸中・陸奥。 ■男女 夫婦。 ■いなむ 去なむ。「去ぬ」の未然形+助動詞「む」。男は都人で、都へ帰ろうと思った。 ■おきのゐて 地名。詳細不明。 ■「おきのゐて…」「おき」は燠火。赤くおこった炭火。「ゐて」はくっついて。
解説
昔は地方に赴任して現地で妻を持っても、任期が切れて都に戻る時には、その妻は現地に置いく習慣でした。そこでさまざまに、別れの場面が生まれました。光源氏が須磨に流された時に出あった明石の君などはその例です。この段は14段、15段と同じく陸奥で出会った女を題材にしていおり、ひとまとまりの話と思われます。