七十一 神のいがき

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むかし、男、伊勢の斎宮に、内の御使にてまゐれりければ、かの宮に、すきごといひける女、わたくしごとにて、

ちはやぶる神のいがきもこえぬべし大宮人の見まくほしさに

男、

恋しくは来ても見よかしちはやぶる神のいさむる道ならなくに

現代語訳

昔、男が伊勢の斎宮に帝の御使として参ったところ、かの斎宮の御殿に、色恋の沙汰を話してきた女が、主人の使いではなく、自分自身の恋の歌として、

私は神社の垣根を越えて一線を越えてしまいそうです。宮廷にお仕えする貴方にお目にかかりたいばかりに。

男、

恋しいなら来て私をみてごらんなさい。神さまがとがめる恋の道でもないだろうに。

語句

■内の御使 帝の御使。 ■かの宮 その斎宮の御殿。 ■すきごと 色恋の沙汰。 ■わたくしごと 主人の使いではなく、自分自身の恋の歌として。 ■「ちはやぶる…」 「いがき」は斎垣。神社のまわりの垣根。いがきを越えるは一線を越えてしまう意味。 「大宮人」は宮廷にお仕えする人。「見まるほしさに」は「お会いしたくて」。

解説

69段の伊勢の斎宮の話の続きです。しかしここでのお相手は、伊勢の斎宮その人ではなく、伊勢の斎宮にお仕えしている女房です。積極的に女のほうから誘いをかけています。貴方にお会いしたくて禁忌を破ってしまいそうですと女が詠みかけると、男はじゃあ来てごらん。神様は色恋を禁じたりしてないんだからね。伊勢の斎宮とのやり取りのような悲劇性もなく、気楽でおおらかな問答です。

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