七十二 大淀の松

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むかし、男、伊勢の国なりける女、またえあはで、となりの国へいくとて、いみじう恨みければ、女、

大淀の松はつらくもあらなくにうらみてのみもかへる浪かな

現代語訳

昔、男が、伊勢の国にいた女に、また会うこともなく、隣の尾張国へ行くというので、ひどく女を恨んだので、女は、

伊勢国の大淀の松である私は貴方につれなくあたっているわけでもなく、貴方のお帰りを待っていますのに、貴方は勝手に私を恨んで、ちょっと浦を見ただけで松のもとまで流れてくることもせずに返っていく波ですね。

語句

■となりの国 尾張国か。 ■「大淀の…」「大淀」は伊勢国の地名。海に近い。伊勢斎宮寮の北方。「まつ」には「松」と「待つ」を掛ける。松に女自身を見立てる。「うらみて」には「浦見て」と「恨みて」を掛ける。

解説

69段から続く伊勢の斎宮の話の続きです。ここでも相手は伊勢の斎宮自身ではなく、伊勢の斎宮つきの女房の一人です。私はつれないわけではないのに、あなたは恨み言ばかり言って帰っていくのね。男のそっけなさを責めている歌です。それにしてもちょっと伊勢に行ってる間に何人相手にしたんでしょうか。忙しい男です。

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