三十 はつかなりける女

むかし、男、はつかなりける女のもとに、

あふことは玉の緒ばかりおもほえてつらき心の長く見ゆらむ

現代語訳

昔、男がなかなか逢えない女のもとに書き送った。

貴女とお会いできるのは玉の緒のように短く思われて、つらい心ばかり長く続くと見えるのです。

語句

■はつか わずか。なかなか逢えない状態。■「あふことは…」「玉の緒」は玉と玉をつらぬく緒。それが短いので、短いことのたとえ。短い逢瀬だけでなかなか女が逢ってくれないので、つらい心が長く思われるの意。

解説

「玉の緒」が短いとは、玉を糸で貫いて数珠状にしているわけですが、その玉と、玉の間にわずかに見える糸の長さは、とても短いですね。なので短いことのたとえです。

そんなふうに、逢える時間は短く、逢っていない時の恨みは長く切々に思われるという歌です。

前の段からの続きと考えることもできそうです。高子の館で催された花の賀に招かれた業平。若い頃は恋心を燃やしあった二人でしたが、今や高子は皇太子の母という立場。御簾を隔ててしか、業平は対面できないのです。

「業平、今宵の花はどうであるか」なんて、ひょっとしたら一言かけていただけたかもしれないですが。それはあくまで高貴な方が臣下の者にありがたくも下さる言葉であり、かつての愛の言葉とはほど遠いもの。

ああ…つらい。なんと切ないのだろう。もしかしたら、そんな場面かもしれません。