二十六 もろこし船
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むかし、男、五条わたりなるける女を、え得ずなりにけることとわびたりける、人の返りごとに、
思ほえず袖にみなとのさわぐかなもろこし船のよりしばかりに
現代語訳
昔、五条あたりにいた女を手に入れられなくなってしまったと嘆いていた男が、ある人の返事に、
思いもよらなかった。港に大波が立っているように、こんなにも私の袖が涙に濡れることになるなんて。まるで港にもろこし船が寄せて大波が立っているように、私の袖は激しく涙に濡れているのです。
語句
■五条わたり 五条あたり。■わびたるける 「わぶ」は嘆く。■「思ほえず…」 「思ほえず」は 「みなとのさわぐ」「みなと」は水門。河口などの水の出入り口。船を停泊するところ。それが「さわぐ」で、波が高くおおげさな様子。「もろこし船」は中国の大きな船。岸に寄ると、大きな波が立つ。
解説
四段・五段あたりの、二条后藤原高子との関係の後日談のようです。女との関係が破綻した後、男が悲しみにくれてある人への歌の返事として詠んだのです。表現がダイナミックです。
港に、大きなもろこし船が入ってきた。するとどうなりますか?ざぶーざぶーと波が押し寄せますね。そんなふうに、私の袖は涙に濡れているんですよという歌です。