十一 空ゆく月
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むかし、男、あづまへゆきけるに、友だちどもに、道よりいひおこせける。
忘るなよほどは雲居になりぬとも空ゆく月のめぐりあふまで
現代語訳
昔、男が東国へ行ったとき、友人たちに旅先から文を書き送った。
私のことを忘れないでおくれよ。隔たりの程が雲の居所くらいはるか遠くになっても、空行く月がふたたびもどってくるように、ふたたびめぐり会うまでは。
語句
■「忘るなよ…」 「ほど」は隔たりの程。 「雲居」は 雲の居るところ。はるかかなた。下句の「空」「月」が縁語。
解説
旅の途中で、故郷に残してきた友人たちに歌った歌です。七段から十五段まで続く東下りのうちの一話ですが、場所も状況もハッキリしません。松尾芭蕉が29歳で故郷伊賀上野を出て江戸へ向かった時、友人たちに詠んだという句、
雲とへだつ友かや雁の行き別れ
を、彷彿とさせます。