六十四 玉簾
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むかし、男、みそかに語らふわざもせざりければ、いづくなりけむ、あやしさによめる。
吹く風にわが身をなさば玉すだれひま求めつつ入るべきものを
返し、
とりとめぬ風にはありとも玉すだれたが許さばかひま求むべき
現代語訳
昔、男が、ひそかに契りあうこともせずに文ばかり交わしていた女がいて、あの女はどこに住んでいるのだろうかと不審がって詠んだ。
私の身を吹く風にすることができれば、玉すだれの隙間を探して入り込むこともできるのですが。
返し、
風を取り押さえることはたしかにできませんが、誰の許可を得て玉すだれのすきまに入ってくるのでしょう。
語句
■みそかに語らうわざもせざり ひそかに契りあう。ひそかに契りあうことをせずに、文を交わしても住所を教えず、他人行儀に人を介してやり取りをしていたもの。 ■「吹く風に…」 「ひま」は隙間。「玉すだれ」の「玉」は美称だが、玉で飾った立派な簾の意味も読め女のいる所が宮中であることをにおわせる。通常、宮中では女性は簾を隔てて男と会う。簾の内側に男が入るのは、特別な情を交わす意味。 ■「とりとめぬ…」「とりとめぬ」は取り押さえることができない。「たが許さばか」は誰が許すのでしょう。誰も許しません。
解説
男が、みずからを風にたとえ、私は風となってあなたの部屋の玉すだれのすきまから、吹き込みますよと歌うと、いくら風でも、誰の許可を得てそんなことするんですか、やめてくださいと切り返されるというやりとりです。