五十七 恋ひわびぬ
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むかし、男、人しれぬもの思ひけれ。つれなき人のもとに、
恋ひわびぬあまの刈る藻にやどるてふわれから身をもくだきつるかな
現代語訳
昔、男が人知れず物思いしていた。冷淡な相手のもとに、
私は恋に悩みました。海人が刈る海藻の中に住むというわれから。まさにあのわれからのように、私は自分から身を砕いて苦しんだのです。
われから
語句
■「恋ひわびぬ…」 「恋ひわびぬ」は、恋に悩んだ。第二句・三句は「われから」の序詞。「われから」は海藻の中にすむ甲殻類。体が割れて脱皮するので割れ殻という。「自分から」の意味を掛ける。
解説
「われから」という虫の姿を知っていれば、容易に情景がうかびます。われからは海藻に宿る甲殻類節足動物で、体長は4センチ前後。よく和歌に詠まれます。甲羅を割って脱皮するので、ここではわが身を割るほど恋心のつらいことのたとえとして詠まれています。