三 ひじき藻

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むかし、男ありけり。懸想じける女のもとに、ひじき藻といふものをやるとて、

思ひあらばむぐらの宿に寝もしなむひじきものには袖をしつつも

二条の后の、まだ帝にも仕うまつりたまはで、ただ人にておはしましける時のことなり。

現代語訳

昔、男がいた。思いをかけている女のもとに、ひじき藻というものを贈るというので、

もし私に愛情がおありなら、荒れさびれた宿に寝もしましょう。ひじき藻のように衣の裾を引き敷いて。

二条后(藤原高子)が、まだ清和天皇にお仕えする前のことで独身でいらっしゃった時のことである。

語句

■懸想ず 思いをかける。 ■ひじき藻 ひじき。食用になる。 ■「思ひあらば…」「むぐらの宿」はむぐらの生い茂る宿。むぐらはつる草の総称。「ひじきもの」は「ひじき藻」と「引敷物」を掛ける。 ■二条后藤原高子 (841-910)藤原長良長女。清和天皇女御。後に陽成天皇を生む。

解説

ひじきは、ご飯に載せて食べると美味しい、あのひじきです。恋の贈り物としてはあまりロマンチックな感じがしませんが、京都は海が遠く、海のものは貴重な贈り物でした。

おそらく若狭で陸揚げして鯖街道を通って平安京に届けられたものでしょう。

この段で、はじめて二条后の名が出てきます。二条后藤原高子は藤原長良の娘で、後に清和天皇の女御となり、陽成天皇を生みます。つまり、藤原氏が娘を皇室に入れて皇子を生ませて権力を確立していく、その一環ですが、藤原氏は権力をのばしていく過程で、ほかの氏族・紀氏や大伴氏を容赦なく追い落としていきます。

高子と業平
高子と業平

一方、業平は元皇族でありながら世に余された在原氏。藤原氏に「排除」される側の人間です。いわば、高子と業平は敵同士ともいえる立場ですが、しかし、敵同士にも関わらず、燃え上がる恋。高子と業平の関係は、『伊勢物語』の大きな筋の一つとなっています。もっとも実際に二人の間にそんな関係があったとは考えにくく、一種のおとぎ話と思われますが、業平という人物像は人のロマンをかきたてる所があり、高子と業平のラブストーリーは広がっていきました。百人一首にも詠まれている

ちはやぶる神代もきかず竜田川
からくれなひに水くくるとは

この歌は屏風絵をみて詠んだといわれる業平の歌ですが、一説に単に屏風絵の風景を歌ったのではなく、いまだ忘れられない高子への恋心を詠みこんでいるともいわれます。

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