九十三 たかきいやしき

むかし、男、身はいやしくて、いとになき人を思ひかけたりけり。すこし頼みぬべきさまにやありけむ、ふして思ひ、おきて思ひ、思ひわびてよめる。

あふなあふな思ひはすべしなぞへなくたかきいやしき苦しかりけり

むかしもかかることは、世のことわりにやありけむ。

現代語訳

昔、男が身分は低かったのだが、たいそうつりあわない程身分の高い女に思いをかけた。少し頼みにできそうな様子があったのだろうか、寝て思い、起きて思い、思いがつらくなって詠んだ。

身の丈にあった恋をすべきだ。分不相応に身分違いの恋は苦しいものだなあ。

語句

■身はいやしくて 身分が低くて ■いとになき 「になし」は「似無し」つりあわない。 ■頼みぬべきさま 頼みにできそうな様子。 ■「あふなあふな…」「あふなあふな」は分相応に。ふさわしく。副詞。「なぞへなく」は「なぞへ・なく」。なぞらえることがなく。分不相応に。「たかきいやしき」は高い者と卑しき者との恋。

解説

身分不相応な恋の苦しみです。身分不相応な恋は普通ならまったく見込みが無いのに、ちょっとうまくいきそうなそぶりがあったのです。あっ、これはいけるんじゃないか。ひょっとしたら…しかしまったく後が続かず、ちょっとうまくいきそうな風があっただけに、まったくダメなよりも、さらに苦しみが深くなるのです。

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