四 西の対

こんにちは。左大臣光永です。すっかり春めいてきましたが
いかがお過ごしでしょうか?

御存知の方もあるかと思いますが、
秋葉原に、毎日閉店セールやってる店があります。
カバンとか時計とかの偽ブランド品を売ってる店です。

年中、毎日。何年間も、閉店セールやってますね。

閉店する予定もないのに閉店セールっていうのは
法的にはどうなのか、微妙な気がしますが…もはやアキバの風物詩になっており、
私は見ると安心します。「お、またやってるな」と。

20年、30年後も、変わらず毎日閉店セールやっててほしいもんです!

さて本日は、梅の花盛りにぴったりな、
『伊勢物語』の一節、「西の対」をお届けします。

▼音声が再生されます▼

mp3/004.mp3

平安時代中期。

清和天皇の女御・藤原高子と在原業平が道ならぬ関係にあった…というのが、『伊勢物語』の主要な筋の一つです。高子と業平の物語は、さまざまに趣向を変えて、形を変えて、何段にもわたって物語られます。

東京TAMA市民大学で行った講義の録音です。

むかし、東の五条に、大后(おおきさい)の宮おはしましける西の対に、すむ人ありけり。それを、本意にはあらで、心ざしふかかりける人、ゆきとぶらひけるを、正月(むつき)の十日ばかりのほどに、ほかにかくれにけり。あり所は聞けど、人のいき通ふべき所にもあらざりけりば、なほ憂しと思ひつつなむありける。またの年の正月に、梅の花ざかりに、去年(こぞ)を恋ひていきて、立ちて見、ゐて見、見れど、去年に似るべくもあらず。うち泣きて、あばらなる板敷に、月のかたぶくまでふせりて、去年を思ひいでてよめる。

月やあらぬ春やむかしの春ならぬわが身ひとつはもとの身にして

とよみて、夜(よ)のほのぼのと明くるに、泣く泣くかへりけり。

現代語訳

昔、東の京の五条大路に面したあたりに、大后の宮がいらっしゃる舘の西の対にすんでいる女があった。それを、本心からというふうでもなかったが、その実かなり本気で恋していた男が行き通っていたが、正月十日ごろに、その女はよそに移ってしまった。どこに移ったかは聞いたが、しかるべき身分の人でもなければ行くこともできない場所であったので、男は憂鬱な気持ちのまま過ごしていたのだった。翌年の正月、梅の花盛りの頃、男は去年の思い出にかられて西の対に訪ねて行き、立って見、座って見、あたりを見るのだが、去年に眺めた様子とはまるで違う。男はうち泣いて、むき出しになった板敷の上に、月がかたむくまで伏して、去年を思い出して歌を詠んだ。

月は昔の月では無いのだろうか。春は昔の春では無いのだろうか。わが身だけはもとのままのわが身なのに。

と詠んで、夜がほのぼのと明ける頃、泣く泣く帰っていった。

五条后と二条后(高子)
五条后と二条后(高子)

語句

■東の五条 東の京の五条通り。東の京は、朱雀大路から東。■大后宮 仁明天皇の后、文徳天皇の母の五条后順子。 ■西の対 寝殿の西にある対の屋。■本意 本心。「本意にはあらで」は「本心からというわけではないが」。■あばらなる 障子などを取り払って、むき出しになった状態。 ■「月やあらむ…」「や」は反語とも疑問とも取れる。紀貫之により「心あまりて詞たらずの歌」とされる歌。

解説

引き続き、業平と高子とおぼしき二人の話です。高子は若い頃、叔母にあたる五条后順子(のぶこ)の館に起居していましたが、そこへ男がひそかに通っていました。

ところが、突然高子はいなくなります。高子は、皇室と姻戚関係をすすめて権力をのばそうとはかる権門藤原氏の娘であり、清和天皇のもとに入内してしまったのでした。

「本意にはあらで」とあるので、男は前々から高子がそのような政治の駒として使われることを不本意に思い、もうやめようよ。私といっしょに逃げようよ、なんて言ってたかもしれませんね。しかし高子は行ってしまいました。二度と手の届かない、御簾の向うの世界に。翌年の春、高子がいた館の跡に行って、去年を思い出して男は涙します。

「月やあらぬ春や昔の春ならぬ」高い調で、しみじみ胸にせまる歌です。景色も、場所も、何ひとつ変わってはいないが、去年とは、すべてが変わってしまった。愛しいあの人がいない。それだけで、すべてが変わってしまったようだ。なんと空しいのだと。

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本日も左大臣光永がお話しました。ありがとうございます。ありがとうございました。

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伊勢物語 全章徹底解読 音声つき


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