百二十四 われとひとしき人

むかし、男、いかなりけることを思ひけるをりにかよめる、

思ふこといはでぞただにやみぬべきわれとひとしき人しなければ

現代語訳

昔、男が、どんなことを思っていた時だろうか、こう詠んだ。

思うことはいろいろあるが、、言わないで胸に留めておこう。しょせん自分と心を同じくする人など、一人もいないのだから。

語句

■「思ふこと…」 「思ふこと」の具体的な内容は示されないが、構成上、人生を振り返ってのさまざまの感慨と取れる。「われと等しき人」は自分と同じ心を持った人。「人し」の「し」は強意。

解説

最終段の、ひとつ手前の話で、人生の終わりを予感した男が、おのが人生を、思い反しているのです。

さまざまの恋を渡り歩き、追ったり、追われたり、権力闘争にまきこまれそうになったり、熱い友情に涙したり、喜怒哀楽の果てに、晩年にたどりついた境地でしょう。

歩んできた人生についても、歌についても、言いたいことは山ほどある。しかし、所詮それは私個人の感慨にすぎない。しょせん、人からは理解されないのだ。同じ人生を歩んできたものででもなければ理解されない。しかし、現実にはそんな者はいないので、今は口を閉じよう。何も言うまい。このまま、あの世まで、持っていくとしよう。

一面には真実に思えます。何も言わないほうがいいのだと。しかし…そう言っている作者が、こんなにも多くの歌を残し、言葉を残し、『伊勢物語』という作品を千数百年もの後世にまで伝えていることは、面白いことです。あなたはどうお思いでしょうか?

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