百八 浪こす岩

むかし、女、人の心を恨みて、

風吹けばとはに浪こす岩なれやわが衣手のかはくときなき

と、つねのことぐさにいひけるを、聞きおひける男、

宵ごとのかはづのあまた鳴く田には水こそまされ雨はふらねど

現代語訳

昔、女が、男の心を恨んで、

風が吹けばいつも浪が越えて濡れる岩なのでしょうか私は。私の袖はいつも悲しみの涙に濡れて乾くことがありません。

と、いつも言う口癖として言っていたのを、それを聞いて、自分のことだと思った男が、

毎夜たくさんの蛙の鳴く田には、たとえ雨はふらなくても、水かさが増していますよ。そんなふうに、私だって涙に暮れているんですよ。

語句

■「風吹けば…」「とはに」は常に。いつも。毎回。 ■つねのことぐさ いつも言う口癖。 ■聞きおふ 聞いて、自分のことと思う。 ■「宵ごとの…」 「かはずのあまた鳴く田には」 蛙の涙で田に水があふれる。泣いているのは男という説と女という説がある。

解説

女が男の無情なのを恨んで、海岸の岩を絶えず波が越えていくように、私の袖はいつも涙に濡れています。そう詠むと男が、毎夜カエルが鳴く田んぼでは雨が降らなくても蛙の涙で水が増すんですよ。私だって涙でいっぱいですと答えます。

つまり、あなたこそ無常です私は悲しいですと。女の歌は海岸の風景。男の歌は田園風景。それぞれのイメージを描いています。ただし女の歌は別にこの男に向いているわけではなく、男の空回りですが。

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