九十八 梅の造り枝

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むかし、おほきおほいまうちぎみと聞ゆる、おはしけり。仕ふまつる男、九月(ながつき)ばかりに、梅の造り枝に雉をつけて奉るとて、

わが頼む君がためにと折る花はときしもわかぬものにぞありける

とよみて奉りたりければ、いとかしこくをかしがりたまひて、使に禄たまへりけり。

現代語訳

昔、太政大臣と申し上げる方がいらっしゃった。お仕えしている男が、九月ごろ、梅の造花のついた枝に雉をつけて献上するといって、

私が頼りにする君のために折った梅の花は、季節に関係なく咲き誇っています。

と詠んで差し上げたので、太政大臣もたいそう趣深く思われて、使に褒美を取らせた。

語句

■おほきおほいまうちぎみ 太政大臣。藤原良房(804-873)のことか。良房が太政大臣であったのは857-872。 ■梅の造り枝 梅の造花をつけた枝。 ■「わが頼む…」「しも」は強意。「ときしも」に「雉」を詠み込んでいる。 ■かしこし 非常に、たいそう。■禄 褒美。

解説

太政大臣藤原良房に、梅の造花におそらく鷹狩の獲物であろう雉を添えて贈ったのです。造花だけに、季節にしばられず、いつでも咲くということで、わが君の繁栄が季節など関係ないですと祝福の意をこめた歌です。「時しも」の中に、「きし(きじ)」が詠み込まれている点に、ご注目ください。

藤原良房は人臣としてはじめて摂政となった人物で、娘明子(あきらけいこ)を文徳天皇の後宮に送り込みました。そして文徳天皇と明子との間に生まれた第四皇子惟仁親王が、清和天皇として即位します。

娘を次々と天皇家に嫁がせて外戚としての地位を確立する、摂関政治のさきがけとなった人物です。

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