七十六 小塩の山

こんにちは。左大臣光永です。大晦日の夜、いかがお過ごしですか?

私は京都に滞在中です。今夜は八坂神社の初詣に行く予定です!
途中、先斗町で飲んでいくのも、楽しみなことです!

さて、先日、【再発売】しました「百人一首 全首・全歌人 徹底詳細解説」
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ちはやぶる神代も聞かず竜田川
からくれなひに水くくるとは

百人一首の在原業平の歌は人気が高いですが、在原業平とおぼしき人物を
モデルとした歌物語が『伊勢物語』です。というわけで、

本日も百人一首と関連して、『伊勢物語』の話をお届けします。

▼音声が再生されます▼

百人一首 全首・全歌人 徹底解説
百人一首 全首・全歌人 徹底解説

『伊勢物語』の大きな筋の一つに、
在原業平と藤原高子の関係があります。

藤原高子は藤原氏の娘であり、藤原氏が権力を大きくしていく
政策の一環として、時の清和天皇にとつがされ、
後に陽成天皇を生みます。

その藤原高子が清和天皇のもとに入内する前に、
在原業平と道ならぬ関係にあった…というのが
『伊勢物語』の主要の筋の一つです。

『伊勢物語』の前半では有名な「芥川」など、
若い二人の情熱的な逃避行が描かれたりするのですが、
この「小塩の山」という話では、業平も、高子もすっかり年を取って、
落ち着いた年齢になっています。

高子は今や皇太子の母であり、業平は一臣下の身分。
若い頃の、あの情熱的だった恋の逃避行は遠い昔の思い出となり、
たまに御簾の向うから声をかけてくださることはあっても、
それは高貴な人がありがたくも臣下に下される言葉に過ぎない…

ああ愛しい高子は、遠い御簾の向うの世界に行ってしまった…!

その時、業平が詠んだ歌とは?

東京TAMA市民大学で行った講義のライブ録音です。

むかし、二条の后の、まだ春宮の御息所と申しける時、氏神にまうでたまひけるに、近衛府(このゑづかさ)にさぶらひけるおきな、人人の禄たまはるついでに、御車よりたまはりて、よみて奉りける。

大原や小塩の山も今日こそは神代のこともおもひいづらめ

とて、心にもかなしとや思ひけむ、いかが思ひけむ、しらずかし。

現代語訳

昔、二条后藤原高子がまだ皇太子の御息所と申されていた時、藤原氏の氏神を祭る大原野神社に参詣されたところ、近衛府に仕えている老人が、人々が衣などの褒美を賜るついでに、御息所の御車より褒美を賜って、そのお礼として歌を詠んで奉った。

ああ大原よ。小塩山も今日は、かの天孫降臨の際に、ニニギノミコトを藤原氏の祖であるアメノコヤネノミコトが守護し奉った神代のことを思い出していることだろう。そのアメノコヤネノミコトの末裔たる御息所が、今日は参詣しているのだから。

と詠んで、翁は心に深く嘆いたであろうか、どう思ったか。それはわからない。

語句

■二条の后 藤原高子(842-910)。藤原長良女。貞観8年(866年)清和天皇の女御となる。陽成天皇の母。■春宮の御息所 皇太子(春宮)の母である女御・更衣。高子の産んだ貞明親王(後の陽成天皇)は貞観11年(869年)立太子。 ■氏神 藤原氏の氏神・天児屋根命(アメノコヤネノミコト)などをまつる大原野神社(西京区大原野南春日町)。小塩山のふもとにある。 ■近衛府 皇居の警護、天皇行幸の警護を行う役所。■おきな 主人公。在原業平と見られる人物。 ■禄たまはる 衣などを褒美として下される。 

解説

二条の后藤原高子と業平の関係の後日談です。高子と清和天皇との間に生まれた貞明親王が皇太子に立った頃、高子は恒例の大原野神社参詣を行います。大原野神社は藤原氏の氏神天児屋根命(アメノコヤネノミコト)などをまつる京都西京区の神社です。

業平は近衛府の役人として随行します。時に業平40代後半。当時の感覚では「翁」といってもおかしくない年齢です。お供の人々が褒美の品を賜る中、業平は人づてではなく、直接高子から賜ります。そこで詠んだ業平の歌。藤原氏の末裔である貴女は、遠い神話の昔の、天孫降臨のことも思い出していらっしゃるでしょう。

表面上は神話の話ですが、その奥には、二人の個人的な関係を言っているのです。若き日に私達は通じ合いましたよね。あの昔を、貴女は思い出してくださっているのでしょうと。まわりの人々には単に神話の話を詠んだように見せて、車の中にいる高子にだけは、意味が通じるように詠んだのです。

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本日も左大臣光永がお話しました。
ありがとうございます。

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