七十 あまの釣船

むかし、男、狩の使よりかへり来けるに、大淀のわたりに宿りて、斎宮のわらはべにいひかけける。

みるめ刈るかたやいづこぞ棹さしてわれに教えよあまのつり船

現代語訳

昔、男が狩の使から都へ戻っていく時、大淀の渡し場に泊まって、斎宮にお仕えする童に歌をよみやった。

人を見るという名を持つ海松布。それを刈っているのはどのあたりだろうか。棹を海にさして、私に教えてくれ海人の釣り船よ。

語句

■大淀 伊勢国多気(たけ)郡。斎宮寮の北方。「わたり」は渡し場。 ■「みるめ刈る…」 「みるめ」は「見る目」と「海松布」を掛ける。「かた」は「潟」と「方」を掛ける。暗に、斎宮に逢う手はずを整えてくれと頼んでいる。

解説

前の段の伊勢の斎宮の話の後日段です。狩の使いとして伊勢に来た男は、斎宮と通じ合うことができないまま、後ろ髪を引かれる思いで伊勢から尾張に旅立っていきます。

その途中を、伊勢の斎宮の童女が船に乗って見送ってくれます。おそらく伊勢の斎宮が男に心惹かれる思いで、この童女をつけてくれたものでしょう。所は尾張に通じる大淀の渡。男は童女に、歌を詠みます。

みるめ…海藻を取ることのできる潟は、どこだろうか。教えてくれ漁師の釣り船よ。これが表の意味で、その裏に、あの女とお会いできる方向はどこだろうか。教えてくれ童女よと呼びかけているわけです。

生命が無い釣り船に呼びかけていることが、哀愁ただよいます。小野篁が隠岐の島に流される時に詠んだ

わたの原 八十島かけて漕ぎ出でぬと
人には告げよ 海人のつり舟

百人一首11番の歌に通じる哀れがあります。

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