二 西の京

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むかし、男ありけり。奈良の京ははなれ、この京は人の家まだ定まらざりける時に、西の京に女ありけり。その女、世人にはまされりけり。その人、かたちよりは心なむまさりたりける。ひとりのみもあらざりけらし。それをかのまめ男、うち物語らひて、かへり来て、いかが思ひけむ、時は三月(やよひ)のついたち、雨そほふるにやりける。

おきもせず寝もせで夜を明かしては春のものとてながめくらしつ

現代語訳

昔、男がいた。奈良の都は遠くなり、この都(平安京)はまだ都としてしっかり機能していない時に、(まだ開けていない)西の京に女があった。その女は、世間の人より優れていた。その人は、容姿ではなく心がすばらしかったのだ。独身ではなく、通う男があったようだ。それを、かの「誠意ある男」が情を通わせて、帰ってきて、どんなに恋しく思ったのであろうか。時は三月一日、雨がしょぼしょぼと降っている時に文を書き送った。

起きているのでもなく、寝るのでもなく夜を明かしました。朝になると春らしい長雨が降っています。私はその長雨を見ながら、ぼんやり物思いにふけって一日を過ごしてしまいましたよ。

語句

■奈良の京ははなれ… 784年長岡京遷都。794年平安京遷都。「この京」は平安京のことと思われる。 ■西の京 平安京中央を南北に走る朱雀大路から西側。東の京が先に開け、西の京が遅れて開いた。 ■ひとりのみもあらざりけらし 独り身ではなく、通う男があったようだ。 ■まめ男 誠意ある男。 ■雨そほふる 雨がしょぼしょぼと降る。 ■「おきもせず…」 「春のもの」は春の景物。長雨のこと。 「ながめ」は物思いにふける意味の「眺め」と「長雨」を掛ける。

解説

第一段と同じく、平安京遷都まもない頃の話ですが、今度は平安京の西の京が舞台です。また主人公の行動も、第一段と第二段では対照的です。

第一段の主人公は若い勢いに任せて恋心を相手にぶつけているのに対し、第二段の主人公はかなり迷ってますね。なかなか思いを伝えられない、しっとりと憂鬱な感じです。

違う二人なのか。同じ人物の両面を描いたもののか、細かい設定はぼんやりとかすみ、読み手の想像力にゆだねられています。

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